フレイルとは?
フレイルとは、英語のFrailtyが語源で、「虚弱、老衰、脆弱など」を意味します。
「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により生活機能の維持向上が可能な状態像」と報告され、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。
加齢により心身が老い衰えた状態で、増悪すると要介護、要支援に繋がりやすい状態です。
つまり、「健康 ⇄ フレイル ⇄ 介護、支援が必要な身体機能障害」と表すことができます。
早期発見・適切な介入が大切
高齢者は、フレイルを発症しやすく、生活の質(QOL)の低下、様々な合併症を引き起こす危険があります。
多くは、フレイルを経由して介護状態へ進むと考えられていますが、早期に発見し、適切な介入を行うことで元の健康な状態に戻れる可能性があります。
このように、フレイルは、早期に発見し、適切に介入することが非常に大切なため、2020年4月より後期高齢者(75歳以上)を対象としたフレイル健診が開始されました。
いろいろなフレイル
フレイルには、以下のようにさまざまな種類があります。
- 身体的フレイル:身体的機能低下で、サルコペニア(筋肉量、筋力低下)と深く関係
- 社会的フレイル:対人関係、物的な環境要因から個人の経済状況まで含まれる状況
- 認知的フレイル:認知症には至らないが、認知機能障害と身体的フレイルが共存する状況
- 精神・心理的フレイル:うつ状態、無気力などにつながる状況
- その他のフレイル:口腔フレイル、薬物フレイルなど
それぞれのフレイルは、密接に影響しあっています。
フレイルの例
社会的フレイルになると、身体的、認知的な刺激の低下から心身の機能低下が加速し、身体的フレイルになりやすくなります。
身体的フレイルに対して適切に介入することで認知的フレイルが改善することもわかってきています。
精神・心理的フレイルになると、意欲低下、外出機会・社会参加機会の低下が起こりやすく、1人の時間が多くなり、食欲が低下し低栄養につながり、各種フレイルに陥りやすいです。
想定されている原因
- 低栄養、体重減少
- 加齢に伴う身体活動量の低下と社会交流機会の減少
- 身体機能の低下(歩行スピードの低下)
- 筋力の低下(握力など)
- 認知機能の低下
- 易疲労性や活力の低下
- 慢性的な管理が必要な疾患への罹患(呼吸器疾患、心血管疾患、メンタル、貧血など)
- 収入・教育歴・家族構成 など
加齢による脳や身体機能の低下、視覚、聴覚の低下、病気や障害などによる健康の喪失、配偶者や友人などとの死別による喪失感、定年退職、子供の自立などによる社会的役割の喪失感などの影響も報告されています。
フレイルと低栄養
フレイルとフレイルの原因でもあるサルコペニアは低栄養との関連が強いことが報告されています。
タンパク質、ビタミン、葉酸の摂取量不足はリスクが高いと報告されています。
身体活動量が低下すると、筋肉量低下(サルコペニア)が起こり、基礎代謝量は低下し、エネルギー消費量は低下します。
身体がエネルギーを必要としないため、食欲、食事量が減少し、低栄養状態がさらに進むという悪循環を繰り返してフレイルは進行していきます。
低栄養に至る原因の1つに口腔フレイルなど、歯科、嚥下の問題もあります。
薬物によるフレイル状態
ベンゾジアゼピン、抗コリン薬の長期使用で転倒、認知機能障害などのフレイルになる可能性があることが報告されています。
高齢で長期使用中の内服薬の中止判断が難しく、多種類の内服薬使用(ポリファーマシー)には注意が必要です。
内服薬をなるべく増やさない、運動などの代替治療が可能であれば考慮したいものです。
症状
- 死亡率の上昇や身体能力の低下が起こります。
- 転倒しやすくなり、打撲、骨折などを引き起こしてしまう可能性が上がります。
- 病気にかかりやすくなったり、病態が悪化して入院が必要になったりと、ストレスに弱い状態になっています。ちょっとした風邪で肺炎を発症することもあります。
- 入院すると、周囲の環境変化に対応できずに、自分がどこにいるのかわからなくなったり、感情のコントロールが難しくなり、せん妄状態となることがあります。入院を契機にフレイル状態、さらには寝たきり状態に移行することもあります。
- 新しいことを覚えるのが大変、新しい環境に馴染むのが大変になります。
- 短期記憶、エピソード記憶が低下しやすくなります。(例:朝ご飯を思い出せないなど)
- 物事の処理速度が低下し、複数の課題を同時に行うのが困難になります。
- 加齢で性格的な変化が起こることもあります。(例:頑固になったり、おおらかになったりする)
- 身体機能低下や社会的孤立などの状態から不安やストレスを抱えると、うつ状態、無気力になることもあリます。
診断
日本版 フレイル診断基準(J-CHS基準)
- ①体重減少:6ヶ月で、意図しない2kg以上の体重減少
- ②疲れやすい:ここ2週間程度、訳もなく疲れた様な感じがする
- ③歩行速度の低下:1.0m/秒未満の歩行速度
- ④握力の低下:男性<28kg、女性<18kg
- ⑤身体活動量の低下:軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツをどちらも週に1回も行っていない
①~⑤までの5項目のうち何項目該当するかを確認します。
- フレイル:3項目以上該当
- プレフレイル:1~2項目のみ該当
- 健常:該当なし
上記は主に身体的フレイルの診断基準となりますが、フレイルには身体的な変化だけではなく、気力の低下などの精神的な変化(認知的フレイル、精神・心理的フレイル)や社会的なもの(社会的フレイル)、口腔フレイル、薬物フレイルなども含まれます。
その他にも、フレイルの基本チェックリスト(25項目)、イレブンチェックなど、アンケート方式でフレイルをチェックする方法も考案されています。
新規の要介護・要支援状態の発生に関して
フレイルだと4.65倍、プレフレイルだと2.52倍程度発生率が上がると報告されています。
セルフチェック
フレイル、プレフレイル状態にご本人が気づくことはなかなか困難ですが、ご家族や医療者が早期に気付き、適切に対応することができればフレイル状態から健常に近い状態に改善したり、要介護・要支援状態への移行を減少できる可能性があります。
高齢化社会では、高齢者を周囲のたくさんの目で見守ることも大切です。
予防
フレイルは、「健康 ⇄ フレイル ⇄ 要介護、要支援」と表すことができます。
フレイルにならないようにして、フレイルの進行を防ぎましょう。
また、なるべく健康になれるよう努めていきたいですね。
高齢者に発生しやすいフレイルは適切に予防すれば日頃の生活にサポートが必要な要介護状態に進まずに済む可能性があります。
そのため、フレイルの予防にはフレイルのメカニズム(フレイルサイクル)をよく理解し、正しい介入方法を行う必要があります。
フレイルサイクル
- ①慢性的な低栄養、疾患、加齢に伴う筋肉量低下などからサルコペニアになる
- ②サルコペニアになると筋力低下から身体機能が低下し、活動量が低下する
- ③活動量が低下すると、エネルギー消費量が低下し、食事量も低下する
- ④食事量の低下、加齢に伴う食欲不振があると、慢性的な低栄養につながる
フレイルサイクルを断ち切る、
フレイルサイクルのスピードを遅くするための介入方法
基礎疾患の治療(糖尿病、高血圧、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、整形疾患など)
これらがコントロールできていないとフレイルに有効な運動療法が困難になります。
感染症の予防
高齢者は免疫力が低下していることが多く、感染症(インフルエンザ、肺炎など)にかかりやすく、重症化して入院、ベッド上の生活(寝たきり)になることもあります。
日頃から適度な運動を行い、バランスの良い食事を心がけることで感染症に強い体作りをすることが大切です。
また、各種予防接種を行うのも有効です。
運動療法
適切な運動療法を行うと、高齢者であっても筋力が維持されることがわかっています。
日常生活に運動の要素を取り入れてみましょう
- 外出はなるべく徒歩で、姿勢良く歩幅を大きくし、手を振って少し早く歩いてみる。
- 階段を積極的に使用するようにする。
- ながら運動をしてみる。(例:テレビを見ながら足の運動をする)
- 外出するきっかけを作る。(例:家族・友人に会いに行く、催し物に行くなど)
個人の状態にあった適切な運動を選択し、継続することが大切です
レジスタンス運動、ウォーキング、アクアエクササイズ、チューブトレーニング、インターバルトレーニングなど色々な運動が有効だと報告されています。
レジスタンス運動とは、筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行う運動のことです。
①スクワット、②上体起こし、③ランジがおすすめです。
当院でも適切な運動方法の指導ができます。
お気軽にお尋ね下さい。
自治体が主催するスポーツ教室、体操教室などに参加してみるのもお勧めです。
栄養療法
フレイルの主な原因にサルコペニア(筋肉量減少、筋力低下)と低栄養が挙げられます。
サルコペニア対策には、筋肉の形成、維持に必要なタンパク質を十分に摂取する必要があります。
特に、タンパク質合成を促し、分解抑制して筋肉の形成を促す必須アミノ酸であるロイシンが注目されています。
ロイシンは、BCAAの1つ(バリン、ロイシン、イソロイシン)です。
運動後にアミノ酸、プロテインを摂取することも有効です。
運動療法と栄養療法をセットで行うとさらに有効です。
また、ビタミンD、カルシウムなどの摂取により骨密度を維持することも大切です。
家族・友人と一緒に食事をとると良いでしょう
独居高齢者1人で食事している場合、どうしても食事の品数が少なかったり、食材の偏りが出てしまいがちで、食事そのものへの関心が薄れがちです。
食欲低下から食べる量が減り、低栄養状態になりやすくなります。(フレイルサイクル)
一方で、家族・友人と一緒に食事をとると、コミュニケーションを取りながら、楽しく食べることで食欲が高まり、品数も増え、色々な食材を食べられ、低栄養を避けることができる可能性があります。
家族・友人と会食する機会を積極的につくり低栄養を防ぎ、心身の健康維持を保ちましょう。
低栄養を予防し老化を遅らせるための食生活指針
- 3食のバランスをよく取り、欠食は絶対避ける
- 動物性タンパク質を十分に摂取する
- 魚と肉の摂取は1対1の割合にする
- 肉はさまざまな種類を摂取し、偏らないようにする
- 油脂類の摂取が不足にならないように注意する
- 牛乳は毎日200ml以上飲むようにする
- 野菜は緑黄色野菜、根野菜など豊富な種類を毎日食べ、火を通して摂取量を確保する
- 食欲がないときは特におかずを先に食べ、ご飯を残す
- 食材の調理法や保存法を習熟する
- 酢、香辛料、香味野菜を十分に取り入れる
- 味見してから調味料を使う
- 和風、中華、洋風とさまざまな料理を取り入れる
- 会食の機会を豊富につくる
- 噛む力を維持するために義歯は定期的に点検を受ける
- 健康情報を積極的に取り入れる
口腔機能のケア(オーラルフレイル予防)
加齢とともに噛むこと、飲み込むことなど、口腔機能が低下すると、硬い食材が食べられなくなったり、むせたりすることがみられます。
歯、歯茎が弱くなり、噛む機能が低下すると、肉や繊維質の野菜など、硬めの食材が食べにくくなります。
柔らかいものばかり選んで食べているとますます噛む機能が低下して食事の質が低下してしまいます。
定期的に歯科検診を受けて口腔機能の低下を予防すること、噛み応えのある食材を選んでよく噛んで食べることを意識し、食事の質を維持しましょう。
飲み込みに関する筋肉の筋力低下が起こると、飲み込む機能が低下して食べたものや飲んだものが気管に入り、むせたり、詰まったりする誤嚥を起こすこともあります。
特にお餅、こんにゃくゼリーなどを喉に詰まらせると、死亡原因ともなり大変危険です。
口腔機能維持のためのケア方法
- 口腔の体操(パタカラ体操)
- 唾液を出しやすくするマッサージ(耳下腺、舌下腺、顎下腺)
- 歌を歌ったり、早口言葉をいう、友人、家族とおしゃべりする
- 姿勢を正して顎を引いて、よく噛んで食べる
加齢により心身が老い衰えた状態を悪化させず、
改善するような行動、活動、考え方
趣味・スポーツ・ボランティア・仕事・・・なんでも良いので、以下の点を意識してみましょう。
- 色々なことに興味を持ち、積極的にチャレンジしてみましょう。
- 積極的に社会参加し、人と交流しましょう。
- 生きがい(やりがい)や自分の役割を見出すことが大切です。
ハローワークには「生涯現役支援窓口」があり、高齢者の再就職支援もしてくれています。
当院でできること
- フレイル健診
- 専門スタッフによる運動療法、食事指導
診断から関連疾患治療、その後のリハビリ、食事指導まで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
- 関節リウマチ
- 高尿酸血症と痛風発作
- ロコモティブシンドローム
- 骨粗鬆症
- グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
- 大腿臼蓋インピンジメント症候群(FAI)
- 股関節唇損傷
- 変形性股関節症
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