腰椎の椎弓と呼ばれる後方部分が分離した状態が腰椎分離症です。
腰椎の椎間関節突起間部の疲労骨折が分離を起こす主な原因と考えられており、成長期のスポーツ選手に多発します。
典型的には腰部の伸展時に腰痛症状をきたします。
本邦の一般成人の約6%(男性8%、女性4%)に認められ、スポーツ選手では、30~40%に分離症があるという報告もあります。
左右両側に分離症が起こり、完全に分離してしまった場合、分離部の前方成分が下位の椎体に対して移動してしまうことがあり、腰椎分離すべり症と呼ばれます。
原因
腰椎の後方半分はリング状の構造をしていて椎弓と呼ばれます。
そのリングの斜め後方は細く弱い部分で椎間関節突起間部と呼ばれ、背中をそらせる動作やジャンプからの着地のような動作で力学的な負荷がかかります。
成長期で骨がしっかりと成熟していない時期にこのような動作の繰り返しを行なっていると椎間関節突起間部に疲労骨折が生じることがあります。(初期変化)
ケガのように1回の受傷で起こるわけではなく、スポーツの練習などで繰り返して腰椎をそらしたり、捻ったりすることで腰椎分離症は起こります。
腰椎分離症は10代で起こりますが、それが原因となって、後々、分離すべり症に進行していく場合があります。
特徴
そのほか、以下のような特徴がみられます。
腰椎分離は下位腰椎に起こりやすい
下位腰椎では脊椎の傾斜が大きく、負担がかかりやすいためと考えられています。
小学校高学年~中学生、高校生(11歳~17歳)に起こりやすい
遺伝的な要因、体質、スポーツなどの活動量にもよりますが、この年代に生じるのは、発育期の関係で腰椎骨密度が相対的に低い時期であるという点と、骨が成長する関係で周囲の軟部組織が相対的に短くなり、関節可動域が低下しやすく腰部に負担がかかりやすい点などが考えられています。
(特にハムストリングス、腸腰筋などの股関節周囲筋が硬くなり、骨盤や股関節の動きが低下することで腰部に負担がかかりやすくなります。)
野球、バレーボール、バスケットボール、サッカー、柔道、ラグビーなど、頻回に体幹の回旋、前後屈を行うスポーツを行う小中学生で発症することが多いです。
症状
症状は分離症の病期によって異なります。
分離発生期
腰部伸展時に狭い範囲に限局した痛みを感じ、ほとんどのケースがスポーツ中、スポーツ後に腰痛を自覚します。(伸展型腰痛)
分離完成、偽関節期
完全に骨が折れてしまい、痛いまま長期間放置していると分離が完成し、分離部は偽関節という不安定な状態となり、治りにくい状態になります。
この時期には腰痛や下肢痛が生じることが多いです。
この痛みの原因は分離部の炎症と考えられます。
分離部にも関節に水が溜まるように水が溜まることがあり、変形性変化が起こることもあります。
偽関節となった分離部は周囲に骨棘が発生し、腰椎の神経根と接触することで下肢痛が起こることがあります。
同時に下肢の痺れなどの症状が出てくることもあります。
若年時の腰痛を放置した方で、歳をとってからも腰痛があり整形外科に受診される方に分離症による偽関節を認めているケースは多いです。
また、分離症による症状は特に自覚せず、中年以降に通常の腰痛でたまたま整形外科を受診された際に分離症が見つかるケースもあります。
腰痛が継続する場合は受診しましょう
10代で2週間以上腰痛が継続する場合には整形外科受診してチェックすることをお勧めします。
診断
問診
痛みの発症時期、スポーツ活動との関係、どのような動作で疼痛が出るか、下肢症状の有無などを確認します。
身体所見
痛みの誘発(腰部の伸展、屈曲、ひねり動作、下肢伸展挙上での疼痛)、圧痛部位、脊椎の叩打痛、体幹機能、体の硬さ、下肢筋力、知覚異常などをチェックします。
レントゲン、CT、MRI
まずは、レントゲン斜位像で分離部を確認します。(テリアの首輪)
レントゲンでは初期には分離部がわからず、CT、MRIで疲労骨折、骨挫傷様変化が初めてわかることもあります。
MRIでは骨髄浮腫をチェックすることで初期の分離状態を早期に診断することが可能です。
レントゲンで診断がつかず、腰椎分離症の好発年齢で、痛みが2週以上継続している場合にはMRIでの評価をお勧めする場合があります。
分離症の病期
- 初期:椎弓にひびが入った状態、MRIで骨挫傷様変化を認めます。
- 進行期:分離が進んでいく時期です。
- 終末期(偽関節型):完全に分離した状態となります。
腰椎分離すべり症では、通常の腰椎すべり症とは異なり、脊髄のトンネルである脊柱管は狭くならないことが多いです。
つまり、脊柱管狭窄症による症状というよりは、分離部で神経根が圧迫されていることが多く、神経根ブロックで明らかになる場合もあります。
分離部ブロックを行い、現在起こっている症状の原因をチェックする場合もあります。
治療
病態に応じた治療法が必要であり、急性期とそれ以外で治療方針が異なりますがまずは保存的治療から行います。
保存的治療
発生初期の分離症(急性期)
分離部の骨癒合を目指した根治的な治療を行います。
急性期にはコルセットを使用することで安静を保ち、原因となったスポーツ、運動は休止し、骨癒合を目指します。
コルセットは3~6ヶ月程度使用する場合がほとんどで、骨の癒合状況をレントゲン、CTなどで評価しながら治療を行います。
痛みが緩和しても骨癒合傾向が見られるまではコルセットを使用することをお勧めします。
リハビリテーションも大切です
同時に投薬治療、リハビリテーションによる腹圧トレーニング、体幹トレーニング、患部外トレーニング、物理療法、セルフストレッチなども行うことが大切です。
スポーツ活動中止中も復帰に向けた患部外トレーニングをリハビリテーションで行います。
股関節を中心としたストレッチ、体幹筋の強化を疼痛や治療時期に合わせて提案します。
上半身、下半身の協調性を高める訓練も大切です。
また、ジャックナイフストレッチという主働筋-拮抗筋の相反神経支配を使用したストレッチがあります。
(ハムストリングを有効にストレッチしたければ、その拮抗筋である大腿四頭筋を収縮させた状況で行うことで有効にストレッチできるというような理論的なストレッチです。)
スポーツ復帰に関しては整形外科医師、担当PTとしっかり相談しましょう。
コルセットについて
コルセットの種類には、硬性コルセット、軟性コルセットがあり、固定範囲は病態によって変わります。
個人にあった装具使用を提案させていただきます。
偽関節状態の分離症(慢性期)
分離症があっても強い痛み、日常生活への支障はなく生活できる場合が大部分ですが、将来的に腰椎椎間板ヘルニアや分離すべり症になる可能性はあります。
コルセットを使用して安静を保っていても分離部の骨癒合は望むことができず、痛みの管理が治療目的になります。
リハビリテーション、物理療法などで腹筋、背筋を強化する腹圧トレーニング、体幹トレーニングを行い一般的な腰痛予防と腰部の安定性維持を心がけます。
分離部の痛みが強い場合には投薬、分離部ブロック注射などを行い痛みのコントロールを行います。
外科的治療
早期のスポーツ復帰希望、保存的治療が困難な場合
早期のスポーツ復帰希望、長期の安静が困難、分離の進行具合から保存的治療での骨癒合が困難であると予想される場合、偽関節になっていない状態であれば、分離部修復手術、骨癒合目的に骨移植併用での手術が行われることもあります。
日常生活や仕事に支障が生じている場合
耐え難い腰痛や神経根圧迫による臀部痛、下肢痛で日常生活や仕事に支障が生じている場合には、神経の圧迫を除去する手術や固定術が行われることもあります。
分離すべり症を合併している場合には、スクリューと椎体間ケージを使用した椎体間固定が必要になることもあります。
手術を希望される場合には専門施設を紹介させていただきます。
予防
病期によって治療方針が変化するため、なるべく早期の段階で整形外科受診し、侵襲の少ない治療を早期から開始し、骨癒合を目指す治療を行いましょう。
10代で2週間以上腰痛が継続する場合には整形外科受診してチェックすることをお勧めします。
早期発見・早期治療が肝心です。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
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