膝関節に生じる変形性の関節症で、加齢による軟骨組織の質の悪化(変性)、膝関節への負荷により、関節軟骨の摩耗、炎症、変形が起き、痛み、可動域制限が生じる疾患です。
関節軟骨は、損傷が起こると自己修復がほとんど起こらない組織であり、様々な治療方法の開発、研究が行われていますが、現段階では完全には治すことはできていないのが現状です。
症状
主な症状は、膝関節の疼痛、可動域制限と膝関節に水がたまることです。
初期症状
最も早期に現れる症状は"膝に違和感を感じる"ことです。
初期では、膝に負担がかかると痛みがでることはあっても、痛みが長続きすることはありません。
立ち上がり、歩行の初期動作時のみに痛みが出て、休むことで緩和したりします。
中期症状
変形が徐々に進行すると、初期の頃よりも痛みが出やすく、その程度もより強くなります。
中期では、膝の曲げ伸ばしが大変になり、正座、しゃがみ込み動作で痛みを感じます。
また、階段の上り下りもつらくなります。
特に、階段の下りが大変なことが多いです。
関節内に炎症が起こると、関節内・膝裏(膝窩部)に水がたまることもあります。(関節水腫、ベイカー嚢腫)
水腫が血管を圧迫すると下腿のむくみが起こることもあります。
末期症状
痛みが強く、日常生活に支障が出てくるようになります。
末期では、変形もかなり進んでいますので、外見的にも膝関節の変形が目立ちます。
安静時にも疼痛があり、膝の伸展がしっかりできず、平地での歩行にも支障が出ます。
注意
症状には個人差があり、症状の出方や進行具合が異なります。
変形が進行し、ひどいO脚になっていても、痛みがない人もいます。
逆に、変形は目立たなくても痛みが強い場合もあり、症状の程度には個人差があります。
神経障害性疾患(重度の糖尿病、梅毒、脊髄ろうなど)があると疼痛を感じにくく、変形が急激に進行する病態もあることが報告されています。(シャルコー関節)
原因
原因には大きく分けて2種類あります。
①膝関節に何らかの理由で負担がかかって起きる場合
膝関節への負担は、多くの場合、様々な要因が絡み合って起きるため原因をはっきりと特定することは難しいです。
加齢(関節軟骨の弾力性の低下、水分保持能力の低下、軟骨の質の低下、変性)、肥満、筋力低下、不適切な運動、靴などが主な原因です。
遺伝も関与することが報告され、男女比は1:4程度と女性で起こりやすい病態です。
②けがや他の病気の影響
軟骨のすり減った原因が比較的はっきりとわかることが多いです。
- 関節内骨折、関節軟骨損傷、関節ネズミ:物理的な軟骨の損傷
- 靱帯損傷、半月板損傷:膝関節の安定性が低下することで軟骨に損傷が起こる
- 化膿性膝関節症:膝関節内に細菌関節が起こり、軟骨が溶解する、もしくは術後に起こる
上記の場合、早期に変形性膝関節症になることがあります。
診断
- 問診:いつから、どのような時に痛みが出て困るか?を確認します
- 診察:腫脹、発赤、水腫、圧痛、可動域、歩容、アライメント(骨と関節の配列)、変形のチェックをします
- レントゲン(臥位、立位):骨(変形、骨棘)、アライメントのチェックを行います
- MRI、エコー:軟骨、半月板(損傷、逸脱)をチェックします
これらの所見をもとに総合的に診断します。
セルフチェック
- 鏡を見た際にO脚、X脚が気になる。運動靴の擦り減り方が左右で違う。
- 膝蓋骨周囲に腫れが出て膝の内外側に疼痛がある。安静時にも疼痛がある。
- 立ち上がり動作、正座、和式トイレ、階段を下りる時などに膝痛を感じる。
上記の場合、変形性膝関節症の可能性がありますので、整形外科受診をお勧めします。
発病初期は痛みがすぐに緩和したり、痛みがあっても年齢のせいだと思い、整形外科に受診していただける人が少ないです。
適切な治療を受けることで、症状の進行を遅らせることができ、日常生活上の制限を最小限にすることが可能です。
痛みを我慢したり、年だからと決めつけずに、整形外科専門医の診察を受けてみましょう。
治療
変形性膝関節症の進行程度にあわせて、治療法を変えていきます。
痛みを緩和するための治療
- 内服、外用、物理療法:痛みをコントロールし、炎症を抑制します。
- 注射:必要があれば関節穿刺し、ヒアルロン酸・ステロイド、PRPなどを使用します。
運動療法
膝の安定性には、関節のみならず周囲の軟部組織の働きが深く関与することがわかっています。
運動不足、加齢による膝周囲筋力の低下から膝関節が不安定になっていることもよくあります。
まずは歩行時にしっかり膝の伸展ができるようになりましょう。
しっかり運動できるようになると、膝関節周囲の深部体温も上がるようになり、関節の滑り、痛みの緩和にも有効であることがわかってきています。
リハビリテーションで行う膝関節周囲筋トレーニング、関節可動域訓練が非常に有効です。
運動療法には即効性はないものの、毎日繰り返すことで、筋力、可動域を取り戻していきます。
ただし、不適切な運動で無理をしてしまうと、かえって症状を悪化させてしまう事もありますので、整形外科医師、リハビリテーションスタッフと相談することをお勧めします。
不適切な運動の例
- 膝への負担を減らすための体重減少を目的として、ランニングなど無理な全身運動をすることで逆に負担をかけすぎている。
- 変形性膝関節症による疼痛が強いのに痛みを伴う運動を頑張りすぎている。(そもそも、痛みが強い状況で運動を継続することは困難です)
体重過多の場合、全身運動をすることで減量し、膝への負担を減らすことは有効ですが、膝への負担が強くかかる運動で症状を増悪させてしまう可能性があるため、水泳、水中歩行、アクアビクスなど水中でできる運動、マシントレーニングなどが推奨される場合もあります。
また、状況によっては、まず食事療法などである程度減量してから運動を開始することをお勧めする場合もあります。
患者さま一人一人に合った運動療法を当院では提案させていただきます。
装具・補助具による治療
関節への負担を軽減するために、インソール、杖、サポーターなどの装具を使用する治療です。
- インソール・足底挿板:膝関節にかかる負担部位を変更して疼痛を軽減します。
- 杖:痛みが強い膝の反対側で杖を使用することが基本となります。
- サポーター:日常生活では困っていなくとも、遠出や運動をする際には効果的です。制動効果の強いサポーターを常時使用することは、逆に筋力低下を引き起こす可能性があり注意が必要です。
運動療法を併用することで、変形の進行を防ぐ効果が期待できます。
再生医療
PRPとは、抹消血液中の血小板分画を抽出して関節内に投与する治療です。
骨髄細胞、滑膜細胞、脂肪細胞を事前に採取、細胞を培養し、関節内に移植します。
自費診療で、再生医療法の認可を受けた施設で行うことが可能です。
手術による治療
上記治療で症状の改善ができなかった場合には、手術による治療も考慮します。
変形性膝関節症の進行の程度、年齢を考慮して治療法を変えていきます。
関節鏡視下手術
骨、軟骨、半月板を処置し、関節内をお掃除したり、修復できる箇所は修復します。
軟骨損傷部にドリリング、マイクロフラクチャーと呼ばれる治療を行うことで軟骨の再生が期待できます。
骨切り術
脛骨近位、大腿骨遠位を骨切りし、アライメント(骨と関節の配列)を調整する方法です。
O脚で膝内側に負担がかかっている場合に脛骨近位部の骨切りをすることで負担部位を外側に移動する方法(高位脛骨骨切り術:HTO)などがあります。
骨切り部に人工骨を挿入し、プレートなどを使用して内固定を行います。
プレートは後に抜去することが多いです。
人工膝関節置換術
変形した膝関節部を除去し、人工物で置換する手術です。
膝関節全体を置換するTKAの他、片側のみ置換するUKAがあり、膝蓋骨の関節面は置換する場合と温存する場合があります。
人工膝関節の寿命、耐用性は患者様の活動性にもよりますが、最近では20年以上といわれています。
人工関節の摩耗がひどければ、再手術(再置換)が必要となります。
初回手術と比較するとご本人の負担、術者の負担とも増えるため、可能であれば初回手術で終わらせたいものです。
人工関節術後にもリハビリテーション、セルフエクササイズで膝関節周囲筋の筋力維持、関節可動域を維持することが人工関節を長持ちさせるという観点からも重要となります。
手術をお勧めするケース
- 保存的治療に抵抗性で、痛みのコントロールができない場合
- 痛みで歩行に支障が出て、遊びに行けない、旅行に行けない、外出すらしたくないという場合
- 変形が高度で、手術時期を遅らせることで手術手技が非常に大変になる場合
予防
- 大腿四頭筋の筋力強化(特に内側の筋肉(内側広筋)を意識するのが大切です。)
- 肥満があれば減量を試みる
- 生活スタイルを洋式にする(正座を避け、椅子を使用する。和式トイレであれば洋式に変更する。)
- 膝をクーラーなどで冷やさず、温めて血行をよくする(冷やさないように注意が必要です。)
よくある質問
膝にたまった水をぬくと癖になりますか?
確かに穿刺してもすぐにたまってしまうケースはありますが経過で緩和することが多い印象です。
投薬などの消炎処置を継続しながら筋力強化を行い、膝の安定性を高め、経過をみることが大切です。
ヒアルロン酸注射を行う際には効果を高めるために穿刺をお勧めさせていただくことがあります。
再生医療(PRP治療、骨髄細胞、滑膜細胞、脂肪細胞など細胞治療)に関して
PRP治療にはどのような種類がありますか?
使用するキットによって、白血球の少ないPRP、白血球の多いPRP、次世代PRPなど色種類が色々あります。
値段も自費診療で5万円程度から30万円程度までと幅があり、1回で効果が得られるケースもあれば複数回行うこともあり、個人差は大きい印象です。
一般的には高齢、変形の程度が高度になる程治療効果は悪くなるようです。
細胞を使用した治療とは?
骨髄細胞、滑膜細胞、脂肪細胞を採取し、専門施設で培養することでそれらに含まれる幹細胞を増やし、患部に移植、注射する治療です。
値段は自費診療で数十万円から数百万円までかなり幅があるようです。
細胞を無菌状態で培養するため専門の施設利用が必要であり、高額となります。
人工膝関節全置換術(TKA)とは?
変形性膝関節症治療の最終的な治療方法です。
膝関節を人工物で置き換える治療となるため術後は元には戻れません。
術後早期には創部周囲の疼痛、リハビリでの可動域訓練は大変ですが、徐痛効果は抜群です。
術後に正座が可能な例もありますが、一般的には術後可動域は屈曲120°以上、伸展0°を目指しますが、術前の可動域制限の状態に影響を受けやすいです。
入院期間は施設にもよりますが、術後10日程度から3週間程度が目安となります。
手術の合併症に深部静脈血栓症(DVT)があり、積極的な予防が必要です。
人工関節置換術後のスポーツ活動に関しては執刀医師に相談しましょう。
人工膝関節の寿命、耐用性は患者様の活動性にもよりますが、最近では20年以上と言われています。
人工関節の摩耗がひどければ、再手術(再置換)が必要となります。
サプリメントに効果はありますか?
グリコサミン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、プロテオグリカン、コラーゲン、ポリメトキシフラボンなど、色々なサプリメントが発売されています。
確かにこれらは関節軟骨の構成成分ですが、現状では有効性のエビデンスはありません。
内服することでこれらが関節軟骨に到達するとは考えにくく、消化されたものが材料として軟骨に到達する可能性はあると思います。
ただし、全く効果がないというデータもないため、もし既に内服している方はご本人の判断で継続するかどうかを決定していただければ良いと思います。
有効性のエビデンスが蓄積されれば、将来、薬として認められる可能性もあると思います。
ワーファリンなど抗凝固薬との併用で出血リスクが上がるという報告もあり注意が必要です。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、自費での再生医療、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
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- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
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- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
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- 母指CM関節症
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